「だいたい水品君はシツコイだけが取り柄だから」
それは、私が脳内出血により2週間の意識不明から目が覚めてしばらくして天からの声のように思い浮かんだ棋人氏からの言葉でした。
棋人氏とはもう三十年以上の付き合いとなる。棋人氏とは川柳こそ私が少し先輩ではあるものの囲碁の師匠なので、ここでは師と呼ばさせていただく。囲碁の腕前は七段格と県下でも名を売った相当な打ち手である。
さて、冒頭のこの言葉が、今も、私にとって、勇気をいただいたり、戒めとなったりしている。
良く言えば「諦めない」悪く言えば「ストーカー」と言ったところか。
おそらく後者の意味で言っていたのだろうが、死の淵から這い上がってきた私にとっては、一%の奇跡を信じリハビリに向け必死であった。
そんな師とは今もどっちが「シツコイ」かでよく揉める。
碁は性格が出る、師に言わせると私の碁は「シツコイ」そうである。
私に言わせると師の碁も「シツコイ」「シブトイ」電柱のようにまっすぐに伸びる分厚い碁である。この「電柱の碁」は師にとっては褒め言葉としてとらえているようで、私が「電柱」と言ってもいつもにこにこしている。自覚症状はあるようだ。エヘヘ
しかも川柳にも時々電柱が登場してくる。
折れないのである。「シツコイ」「シブトイ」「諦めが悪い」良くいうと「諦めない」
そこから命名されたのかどうかは、聞いてもいないが、「折れない足」が発刊されたのが平成28年だった。早く中前棋人句集待望の第2弾、「折れちゃった足」を発刊したらどう?と囃子立てた事もあったが…。相変わらず折れないのだ。やっぱりシブトイ
「折れない足Ⅱ」の発刊とあいなった。
先にも触れたが、師の川柳は骨太である。電柱、煙筒などのワードもそうであるが、その句姿そのものが一句仕立てとなっており、一気に読み上げるのが特徴である。
電柱も蹴られるわけがわからない
煙突になって吐きたいものがある
銀行の次はパチンコ屋に入る
決断に飾る言葉を加えない
私のコンチキショウは動かない
最後まで聞かなくたってわかります
舐められたままではないと思います
自販機を蹴って百円取り戻す
真夜中に電信柱けってくる
サムライが道を担いで集まった
などいずれも、平易な言葉でストンと腑に落ちます。
この味を是非楽しんでいただきたい。
棋人氏と二人で初めて行った静岡市民川柳大会、そしてその次は無謀にも全日本川柳広島大会。
そこで、全没の二人に、加藤鰹氏の仲介もあって声を掛けてくれたのが赤松ますみ氏であった。
檀上のますみ氏は「魔法だと思うこの世に生きている」で表彰をされていた。
我々はコロキュウムに在籍することになった。それから一四年、我々は「全日本で壇上に立つ」を合言葉に、毎年各地を行脚するのだが、昨年ついに地元静岡県浜松大会にて勝又恭子氏と3人そろって登壇となった。十年連続出席表彰である。目標とはやや違う意味ではあったが素晴らしい偉業である。それにしても、今日まで続いたのは、「折れない」もそうであるが、二人は女性の趣味が真逆であったことも一因かと思う。
艶のあるところを数句紹介。
マドンナが飴玉もってきてくれた
タイトスカートに網タイツだなんて
桃缶を開けて失神してしまう
十秒もいけない夢をみてしまう
時実新子の言葉に「川柳は上手くなってはいけない」とあるが、まさしくその言葉を忠実に守る。あるいは上手くなれないのか、師の決して上手くはないけど肝の据わった腹に響く句群を人生のバイブルとして、常に脇に置いておきたい一冊である
最後に二句紹介させていただく
ピンコロのチャンス絶対逃さない
ライオンが動くとサバンナが動く
いつまでもご腱吟を。
水品団石
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